ゲーム依存

月光原小学校の校医を務めさせていただいていますが、コロナ禍のため、宿泊学習前検診なども中止になり、あまりお役に立てている気がしませんが、今回、年一回の学校保健研究会も中止となり、参加する代わりに、文章を寄稿させていただくことになりました。最近特に気になっているゲーム依存について、書きましたので、以下に掲載します。少し長いですが、読んでいただければありがたいです。

ゲーム依存  ~前頭前野を育てる子育て~

十数年前も、とある小学校から依頼を受け、ゲーム依存につき、原稿を書いたことがあります。「ゲーム脳の恐怖」という書籍や、ゲームの影響で中学生の2割は人が死んでも生き返ると錯覚する、など、ゲームが子どもの脳に与えるダメージが注目され始めていた頃でした。大人と違って子どもはゲームを反射的に習得していき、ゲーム中、脳の前頭葉の前頭前野という領域の血流が減ることが、脳血流画像検査で証明された研究を取り上げました。ゲームを長時間やるとその後に学習しても脳が働かないのです。前頭前野とはその人の個性の座と言われる部位で、衝動性や攻撃性、注意の持続や、その人の社会性や理性を司ります。その後、その研究をなさっていた先生がゲーム会社とコラボしてソフトを出されたりして、ゲームによる脳障害を防ぐことと逆行するように思い、残念に思った記憶があります。その後、スマートフォンの急速な発達により、ゲームはより身近に、年齢層問わず、スマホゲームという形で入り込んでいます。小児科に関連する学会は、はやくから、アメリカ小児科学会の基準などにも準じ、ゲーム、メデイアなどの総接触間は2時間までと推奨してきました。現実には、2時間を大きく超えてYoutubeなども含め、かなりの長時間メディアに暴露されている子ども達が多いのではないでしょうか。大人のスマホ依存も大きな問題となっており、とうとう日本医師会も「ゲーム障害にならないために」というポスター(健康プラザ№539)を作成しました

ゲーム障害にならないために今できる予防策は                 ①スマホ・ゲームの使用開始年齢を遅くする。②スマホ・ゲームの使用時間を短くする。③スマホを全く使わない時間を作る。④リアルの生活を豊かにする。⑤本人・両親に対する予防教育を行う。⑥大人が良き手本になる。 、、⑥はみなさんできていますか?

従来、ゲーム依存は発達障害の併存症という認識でしたが、アメリカ精神医学界のDSMやWHOの国際診断基準ICDでも疾患の一つとして診断基準ができるほど、世界的に問題となっています。DSM-5では今後の研究課題としてゲーム障害の診断基準は①渇望②離脱症状③耐性④コントロール障害⑤ほかへの興味の喪失⑥否認⑦嘘をつく⑧逃避的使用⑨社会的機能への障害の9項目が提案されました。2022年1月に正式に発効される予定のICD-11では①ゲームをする時間や頻度を自ら制御できない②ゲームを他のどの活動よりも優先する③問題が起こっているにも関わらず続ける、などといった状態が12ヶ月以上続き、社会生活に重大な支障が出ている場合にゲーム障害と診断されます。

どのような要因があるとゲーム依存になりやすいのでしょうか?思春期の男性に好発し、低い自尊感情や学業成績、友人関係の乏しさなどが発症に関係しています。注意欠如・多動性障害などの発達障害は重要なリスク要因で、ゲーム依存の傾向があればはやめに治療を開始しないと、ゲーム依存の離脱症状を家族も抑えられず、家で暴れて警察を呼ぶ騒動になることもあります。

WISCⅣ(ウェクスラー式知能検査)という心理検査は、最も頻度の高い検査の一つで、言語理解(語彙力、意味理解)、知覚推理(視覚認知)ワーキングメモリ(聴覚系短期記憶)、処理速度(目で見て手で処理していく速度)という4つの指標得点で評価します。対人コミュニケーションの困難さや、衝動性多動性、不注意などの問題を抱える児で、ワーキングメモリが低いという傾向がみられます。ワーキングメモリの下位項目は、数唱、逆唱、語音整列、算数などの単純な検査内容ですが、脳の前頭葉機能をよく反映すると言われています。このワーキングメモリが低い児は、ゲーム依存に陥りやすく、注意が必要です。聴覚系より視覚優位で、ぶきっちょでも目で見てぱっぱっと処理できる児にゲーム依存傾向はよくみられます。前頭前野の機能が弱く、注意や集中が続かず何事もやり遂げられず、達成感満足感を得られないタイプの児が、ゲームはどんどん反射的に習得し、簡単に達成感満足感が得られ、依存していくのです。(本来は依存でなく嗜癖が正しい)

家庭で、もうゲームをやめなさいと言ったら切れて暴れたり、課金をするようになったら危険です。課金はギャンブル性が非常に高く、依存に拍車をかけるようです。また、eスポーツやプロゲーマーなど、ゲームを長時間やってスキルを身につけることが賞賛されるような風潮も、問題を複雑にしています。発達外来の不登校児は、将来なりたいものはプロゲーマーだと言う子が多くいます。生まれつき前頭葉の機能が弱い子どもはゲーム依存になりやすく、ゲームを長時間することで前頭葉の血流は低下し、前頭葉機能が落ちる可能性があるわけです。生まれ持って特性のある子はゲーム依存のリスクを予め強く指導します。

具体的に家庭で、ゲーム依存にならないようにするにはどうすれば良いでしょうか?まず、家庭でよく話し合って、ゲームのルールを決めます。例えば宿題が終わったあと、9時まで、とか、1日1時間までとか2時間までとか、30分のチケット制にして1日4枚までとか。目安はやはり二時間。ルールを決めたら、3日守れなかったら3日取り上げるなど、禁止の罰も明確にし、罰を発動する期間に余裕をもたせ(例えば1日守れなくても、次の日守れれば、なかなか3日守れない状態にはなりません。)、罰の解除も明確にする(3日取り上げるがその後はまた遊べる)。無期限で取り上げられあたり、壊してしまったりすると、その後もっと悪い行動(母の財布からお金を抜いて買いに行くなど)に至ることがあります。

子どもの脳はまだ発達過程です。新生児、脊髄レベルだった中枢神経は神経細胞の髄鞘化が2歳で完成します。また、聴覚野視覚野の可塑期(臨界期)は6歳であり、ここは中枢神経系発達の一つの節目でしょう。さらに脳は発達し、脳波は安静閉眼時に後頭葉に現れるα波が、14歳には大人並みになり、9~10Hzになります。日々の関わりで子どもの前頭前野を育て、自尊心や社会性、理性も育てていきましょう。それには、

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